第25回 認知神経リハビリテーション学会学術集会

学会長挨拶

  リハビリテーションの世界では、標準的なエビデンスが整備されつつある一方で、未だ十分に理解が進んでいない症状や複雑に絡み合う病態が数多く存在します。たとえば、半側空間無視や失認・失行、失語などの高次脳機能障害、慢性疼痛、複数の合併症を抱えるケースなど、一筋縄ではいかない状況が日常的に散見されます。そこで重要となるのが、通常観察できる要素だけでなく、課題設定を工夫することや、各種デバイスを活用することで見えてくる特徴に加えて、対象者の経験や価値観など含めた“目に見えにくい”要素にも焦点を当てる姿勢です。

 つまりそれには先端テクノロジーを用いることで定量化できる側面に加えて、対象者のナラティブに寄り添い、それをどのように構造化し研究や実践に活かすかという視点が不可欠だと考えます。単なる数値化や客観的指標にとどまらず、その背後にある経験や感情の変化が、リハビリテーションの現場での重要な手がかりとなるのではないでしょうか。そこで今回の学術集会におけるテーマは「見えないものを観る-行為と認知のvisualization-」としました。逆説的にも思えるこのタイトルには、私たちが普段は気づきにくい“目に見えない要素”を、意図的に「観る」姿勢を通じて捉え直そうという思いが込められており、一見すると捉えにくい要素を“観る”ための視点やプロセスに焦点を当て、医学や神経心理学、神経科学、現象学、社会科学、哲学などの幅広い知見を織り交ぜながら議論することを目指します。

 特別講演では、慶応義塾大学の今井むつみ先生に言語と認知の関係についてご講演いただき、私たちが日常的に使う言葉をメタ的に見つめ直すことで、対象者とのやり取りや意思決定の過程に新たな視点を得られると期待しています。また、名古屋大学の大平英樹先生には、感情的意思決定や内受容感覚、自己感に関する知見をご紹介いただき、リハビリテーションの観察に応用できるかを検討し深めていきたいと考えています。リハビリテーション専門職や心理学の専門家のみならず、広く人間の行為や認知に関心をもつ方々にも示唆を得られる機会となるでしょう。

 一般化されたエビデンスは、臨床における大きな指針であることに疑いはありません。しかし、そこから漏れてしまう対象者の個別性や、語り尽くせない主観的体験をどのように“観る”かが、真の個別化アプローチの鍵になると考えています。本学術集会が、科学的探究と臨床実践の両輪を強固にし、リハビリテーションの奥深い可能性をさらに切り拓く出発点となれば幸いです。

 本学術集会は2025年11月29日〜30日の2日間、“大阪市中央公会堂”にて開催いたします。日本全国から、リハビリテーションだけでなく心理学や関連領域の専門家の方々にも足を運んでいただき、互いの知見を深め合う場にしていきたいと考えております。ともに「見えないものを“観る”」視点を磨き上げ、リハビリテーションの未来を切り拓いていきましょう。熱い想いをもつ仲間が、一人でも多く集まってくださることを心から願っております。

第25回認知神経リハビリテーション学会学術集会
学会長 大松聡子(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

事務局

第25回認知神経リハビリテーション学会学術集会事務局
〒781-0270 高知県高知市長浜6012-10
高知医療学院内 一般社団法人認知神経リハビリテーション学会
E-mail:syukai-25@jsncr.jp

pagetop