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イタリアを旅することによって、私はイタリアに代表される西洋精神って何、と考え続けてきた。ルネサンスから現代に至る科学精神、合理主義だけでは西洋は理解できない。その底には西洋の民族がもうほとんど記憶さえもしていない、まして日本人には見ることが困難な原初の影の部分がある。そこにこそ、裸の西洋人の人間くささや不条理性が見出される。
イタリア美術を見ることは、それをたぐってゆくことでもあった。科学精神や合理主義とは裏腹の、矛盾を畏れない強さや、不合理を温存する深さ。それを知ることもまた大切な西洋への理解であろう。
上記の「はしがき(一部抜粋)」から、「イタリアの旅から―科学者による美術紀行―(誠信書房,1992)」は始まる。
第 1章 葉うらのそよぎ…初夏のパードヴァ・他
第 2章 古寺点描…刻まれた音楽―サン・ベルナルディーノ礼拝堂・他
第 3章 ピエロ・デラ・フランチェスカの旅…ウルビーノで・他
第 4章 ザヴォナローラの旅…フェラーラ・他
第 5章 ナポリの光と影…ナポリへの誘い・他
第 6章 南へ―ポンペイからコスタ・アマルフィターナへ…ポンペイ最後の日・他
第 7章 神々の園―パエストウム…ギリシャ神殿学入門・他
第 8章 リアーチェの戦士…ブロンズ像の発見・他
第 9章 失われた心の旅…バリにて・他
第10章 時の流れへの旅…シチリアの春・他
第11章 エトルリアへの旅…タルクィニアの壁画・他
第12章 サルジニアの秋―跋にかえて…夏の終り・他
ある科学者が「イタリアへの恋に落ちてしまっていた」と告白している。
だから「毎年二十日あまりイタリア各地をさまよう旅を二十年続けていた」という。
この本は、名著「免疫の意味論(青土社,1993)」の前年に出版されている。
ある科学者とは多田富雄先生(東京大学名誉教授,免疫学)のことである。
先生は、今、「リハビリ難民」問題で時の人となっている。
その先生が、雑誌「現代思想11月号(特集リハビリテーション)」に「患者から見たリハビリテーション医学の理念」と題した痛切な論文を寄稿している。
リハビリテーション医やセラピストは、この論文を心して読むべきである。
そして、声を発するべきである。
沈黙は、自らの死を意味する。
だが、日本リハビリテーション医学会、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会は、未だ沈黙を続けている。
認知運動療法はイタリアで生まれた治療である。
僕は、先生が今回の現代思想の特集を読んで、若き日のイタリアの旅を思い出していると思う。またイタリアの旅をしたいと想像していると思う。そのためにはリハビリテーション治療が必要である。その可能性を断つことは、リハビリテーション医学の理念に反している。
日本認知運動療法研究会の会員は、沈黙すべきではない。
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