第20回 認知神経リハビリテーション学会学術集会

学会長挨拶

 第20回目を迎える認知神経リハビリテーション学会学術集会は、一般社団法人として第1回目となる記念の学会になります。そのテーマには、「脳の予測とインテンショナル・アーク―自己経験の記憶/比較の回復に向けた認知プロセスの脱構築―」を掲げました。

 デリダの脱構築(deconstruction)は、広義の意味において、積極的に生成あるいは再構築することを前提とした既成の観念に対する破壊(destruction)であり、安定を好まずむしろ思い込みを相対化して同時にそこから別の可能性を見出そうとする連続性の許容、あるいは不安定さ、不定形さを受け入れる態度のことであると考えられます。それはちょうどルリアのいう一人称と三人称の間を行き来するような臨床観あるいは認知神経リハビリテーションにおける病態仮説の構築プロセスや訓練におけるツールの捉え方に似ています。私たちは現在、「行為の記憶」の想起に伴う表象、「比較する」という問題解決ストラテジーを観察や訓練のツールとして捉え直しています。そこで生じた認知とは何か、回復の対象は何か、といった問いに対しては、新たな知の枠組みをもって臨まなければならないと考えます。

 例えば「記憶=情報の保存」は、因果説と呼ばれますが、記憶についての理解としては正確ではなく、むしろ記憶は主体の選定、抽象化、解釈、統合の仕方によってその都度構築されるもの(生成主義)と考えたほうが良さそうです。これに近年指摘されている未来の想像と過去の記憶は同一の神経システムが担っているという知見を加えると、エピソード記憶の機能は、過去の事柄を保存したり想起したりすること自体というより、過去の情報に基づいて次に起こりうる未来をシミュレートすること(シミュレーション説)、ということになります。そうであれば記憶は想像(イメージ)の一種ということになるので、イメージをどのように使うかという視点をもつリハビリテーションにおいては、その「自己経験の記憶」としての表象が、有用な回復のツールとして新たな可能性を見出すかもしれません。

 今回の学会では、竹田真己先生(高知工科大学総合研究所脳コミュニケーション研究センター)に記憶の想起についての神経科学の現在について、また稲垣諭先生(東洋大学)に志向性の現象学とリハビリテーションの臨床についてご講演いただきます。いずれも本学会テーマの意味を修飾し、また私たちが患者に向き合うときの知の枠組みを大いに刺激してくれるものと思います。そしてクリニカルディスカッションやセミナー、一般演題では日々の臨床で生じた多様な問題を提起していただき、発展的議論がなされるものと思います。これらの場を通して、タルヴィングのいう「心的時間旅行(mental time travel)」を生み出す良質なエピソードを共有できることに期待し、皆様のご参加をスタッフ一同心よりお待ちしております。


 最後に、当法人という主体には、「沖田一彦」という記憶があります。このかけがえのない記憶について、追悼シンポジウムをプログラムに組み込ませていただきました。ここでは、縁の深い先生方に登壇いただき、それぞれの記憶をお聞きしたいと思います。なぜならそれが学会の未来のイメージの構築に有用であり、具体的な指針になると確信しているからです。沖田先生が常日頃から持っていた、わからないもの・ことに対する謙虚さ、セラピストが変わらなければ患者は変われないという臨床に対する真剣さ、あらゆる知に対する慎重さを共有し、法人化第1歩目の学会の歩みをはじめていきたいと思います。

第20回認知神経リハビリテーション学会学術集会
学会長 園田義顕(高知医療学院)

開催会場

首都大学東京荒川キャンパス
〒116-8551
東京都荒川区東尾久7-2-10

事務局

第20回認知神経リハビリテーション学会学術集会事務局
〒781-0270
高知県高知市長浜6012-10
高知医療学院内
一般社団法人認知神経リハビリテーション学会
E-mail:syukai-20@jsncr.jp

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