第22回 認知神経リハビリテーション学会学術集会

学会長挨拶

 この度、第22回学術集会の大会長を拝命いたしました。本学会は2022年10月1日〜2日の2日間、島根県松江市の“くにびきメッセ”にて対面を基本としたハイブリッド形式で開催を予定しています。当学会において地方都市で学術集会開催される事はこれまであまりありませんでしたが、関係者の皆様の支援もあり初めて山陰での開催となりました。

 学会のテーマは「臨床の造形〜We mode rehabilitation〜」です。大阪学会ではWe-mode cognitionについて広く議論が交わされました。認知神経リハビリテーションはその治療の理論構造から「We-mode」という要素を含んでいます。しかし、「患者とセラピストが創る臨床」「患者自身が回復プロセスに参加する」という点においては、どのような要素が必要なのか、またどのようなアルゴリズムが内在されているかについては明らかになっていません。

 ペルフェッティ先生が2009年に「患者と語る」というメッセージを発信されました。この時に、認知神経リハビリテーションとニューロストーリー、神経現象学の活用などの可能性が検討されていますが、本邦において議論が十分に深まっている状況にはありません。

 本学術集会で考えようとしている“臨床”とは、患者とセラピストそして周囲の関係性から生み出される中動態としての存在を意識しています。中動態とは文法における能動態と受動態の間にある概念です。先に触れた「誰かに語る」とすれば話者の能動性が、「語られる」とすれば受動性が意識されますが臨床における語りはそのような「する」「される」という対立関係にはありません。一方が熱心に語ろうとも、聞き手が相手のありのままのアクチュアリティを受け入れる準備が整わなければ対話は成立しません。まさに両者の“あいだ”に共有された意識が立ち上がることが重要であり、そこにWe-modeな臨床の糸口があるように思います。

 ロシアの哲学者ミハイル・バフチンはダイアローグを“意識と意識のコミュニケーションそのものであり、互いの応答を繰り返すことによって、新たなものが生み出され変化していく「アイディアの培養地」である。”と表現しました。セラピストと患者が言語的、非言語的な対話を通じて私たちの臨床が造形されてくのではないか・・・そんな想いでこのテーマにたどり着きました。

 学術集会では特別講演に神戸女学院大学の川瀨雅也氏を招き、患者の生きるアクチュアリティを主軸に話題提供を頂き、中里瑠美子氏、小川昌氏には “私たちの臨床”をテーマに患者が回復プロセスに参加する臨床像についてご自身と患者さんの経験をお話頂く予定としています。
 また、特別企画として人類学者の磯野真穂氏と、CRPS患者当時者でもあり看護師の来間佳世子氏を交え、患者の身体感の変容やその臨床プロセスに臨床の場に何を基点に、何が創発されたのかについてディスカッションを行います。
 そして、指定シンポジウムや臨床実践報告でも多くの会員の皆さんと議論をすることを主軸に学術集会のプログラムを検討しています。

 We-mode cognitionの理解から、We-mode rehabilitaion、そして「私たちの臨床の造形」へ。

 患者と対話し、“生の感触をもった臨床“が全国のリハビリテーション室で巻き起こることを目指します。今秋、世界がどのような状況を迎えているのか分かりませんが、会員の皆さんの声を直接聞き、対話し、そしてともに次の臨床を創る貴重な機会を“縁結びの地”、島根で迎えられることを切に願っています。

第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会
学会長 江草典政(島根大学医学部附属病院)

事務局

第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会事務局
〒781-0270 高知県高知市長浜6012-10
高知医療学院内 一般社団法人認知神経リハビリテーション学会
E-mail:syukai-22@jsncr.jp

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