Home > 会長からのメッセージ目次 > メッセージNo.8
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A.R Luriaの「神経心理学の基礎(医学書院,現在は創造出版より出版)」を初めて手にしたのは1982年の夏である(本の末尾に日付けを記していた)。学校を卒業したばかりの若きPT(自分のこと)が、何を思ってこの本を買ったのか思い出せない。この本は現在、認知リハビリテーション研究会を主宰している慶応大学医学部精神神経科の鹿島晴雄先生により翻訳された名著である。
序文には「人間の行動は能動的性格を持っており、単に過去の影響だけでなく、計画や企図にも規定されることが完全に明らかになった。つまり、未来の相応するモデルを作り出すだけでなく、そのモデルに行動を従わせるのである。また同時に人間の意図や企図、未来の図式やそのプログラムの現実化は科学的認識の領域外に留められるべきではなく、客観的世界の他のすべての現象や関係と同様、それらの基礎にある機構は決定論的分析と科学的説明の対象となりうるし、またしなければならない」と記されている。そして、内容は、第1部:脳の機能機構と精神活動、第2部:脳の局所系とその機能分析、第3部:精神過程とその脳機能となっている。さらに第3部は、「知覚」、「運動と行為」、「注意」、「記憶」、「言語」、「思考」の各章にわけられている。
1991年にPerfetti先生を初めて訪ねた時、「君はアノーヒン(Anokhin)を知っているか」と聞かれた。「知らない」と答えると「ルリアは?」と言ったので「日本語の本が出版されている」と答えた。帰国後、本を読み返すと、ルリアの神経心理学がAnokhin、Bernstein、vygotskyの3名の学問的影響下で構築されていることが理解できた。Perfetti先生の部屋には、パブロフ(Pavlov)の写真が掲げてあった。認知運動療法の源流は「ロシア」なのである。これは、現在の日本で展開されている「認知リハビリテーション研究会」と「認知運動療法研究会」が兄弟であることを物語っている。加藤元一郎先生が認知運動療法研究会に協力してくれるのもこのためなのです。
1990年にアメリカで出版されたE.Goldberg編「Contemporary Neuropsychology and Legacy of Luria」の中で、著名な認知神経心理学者Michael Coleは、ルリアの学問を「Romantic Science」と呼んでいる。最近、その意味が何となくわかるような気がしている。初めてルリアの本を手にしてから、20年近い月日が流れている。
2000.10.28
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