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最近、affordance関係の書籍が相次いで出版されている。アフォーダンスは「環境と身体との新たな出会い」をテーマにしており、従来のデカルト的な二元論(主体と客体との分離)を越える考え方として注目されている。アフォーダンスは、「環境と身体との接触により常に何らかの意味が与えられること」と解釈できるが、大切なことは、この「与えること」が主体に取って受動的でなく能動的である点である。環境から与えられる情報は、常に環境に働きかけることによって結果的に与えられているのである。知覚と運動は一対一の関係ではなく、知覚が運動を、運動が知覚を一方的に決定するわけではない。与えられる情報は知覚と運動の「関係」なのであり、経験により変化する。つまり、意味は多様であると同時に可変的であるといえる。この結果として可変的に与えられた意味が、行為の「予測機能」として脳内で処理され、運動の認知的制御を可能にすると考える点にアフォーダンスの本質がある。ボールを手にすれば投げることができると予測し、鋏を見れば紙をきることができると予測し、階段を見れば登れると予測し、水面を見れば泳ぐことはできるがその上は歩けないと予測する。あらゆる行為は、こうした予測機能に支えられている。アフォーダンス理論の素晴らしさは、経験が未来を高い確率で想定する心的機能を、運動制御理論の中核に位置づけた点で、学問的にも高く評価されている。なぜなら、そうした心的機能は、随意運動の神経運動学的解釈である「運動指令が運動野から脳幹や脊髄を経て筋に至り、感覚フィードバックにより制御されるとする回路」のみで説明できないことを明らかにしているからである。生態心理学から学ぶべき事柄は多い、しかし、その知見を運動療法に応用する時に、アフォーダンスの短絡的な解釈は禁忌である。なぜなら、アフォーダンスは基本的に「現象」の説明であり、どのように治療すべきかを説明しているわけではないからである。
2001.4.6
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