認知神経リハビリテーション学会

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メッセージNo.23  「昼下がりの光景」

 ある光景が脳裏に浮かんで離れない。実際に見たわけではないのに目に焼きついて離れない。

 昼下がりの室内プール。市営の温水プール。おばあちゃんと小さな男の子がいる。男の子は両足が麻痺して一人で歩くことができない。水着姿のおばあちゃんは脱衣場から男の子を背負ってプールサイドまでやってくる。足を滑らさないように気をつけて、ゆっくりと、ゆっくりと、歩いてくる。二人はプールに一緒に入る。そして、おばあちゃんは男の子の両手を取って泳がせる。二人は溺れないようにしっかりと両手を握り合っている。けれど両足は動かない。それで泳げるわけがない。男の子はそれでも喜んでいるように見える。遊んでいるようにも見えるし、何か練習しているようにも見える。回りの大人たちは、遠くから横目で、近くからは笑顔で、二人を眺めている。二人は、いつも二人で、プールの片隅で水と戯れているように見える。僕には、この光景が見える。この光景が脳裏に浮かんで離れない。

 僕の母と妻は、時々、健康のためと市営プールに行っている。そして、母は「おばあちゃんが男の子を背負っている姿を見ると何とも言えない」と言う。今年70歳になる母が、このプールの光景を何度も何度も目撃し、「おばあちゃんの心を想うと胸が痛む」と僕に言う。平日の昼下がりのプールに他の子どもたちの姿はない。幼稚園には行っていないのだろうか? きっと両親は仕事に行っているのだろう。昼間はおばあちゃんが男の子を預かっているのだ。愛する孫だから、少しでも身体のプラスになればいいと、泳ぎに来ているのだ。母は「自分の孫は勉強できなくても身体が健康であればいい」と言う。そして、妻が「あなたは理学療法士でしょう、あの子の両足を何とかリハビリできないのか?」と付け加えた。

 僕には、もう一つの光景が見える。何年にもわたって、男の子に対して行われてきたリハビリという名の光景が見える。小児施設の理学療法室。マットの上で、セラピストが男の子の麻痺した両足を曲げたり伸ばしたりされている。寝返りをしたり、座る練習をさせている。下肢装具を付けて平行棒で歩いている。作業療法室で上肢を使っての日常生活動作訓練を受けている。ボールプールの中で泳いだりしている。小児施設で何年にもわたって繰り返された、リハビリと呼ばれる、男の子への治療が僕には見える。僕には、この光景が見える。この光景が目に焼きついて離れない。

 リハビリよ、あなたはこの子に何ができたのか? リハビリという名のもとに何ができたのか? あなたはきっと最善を尽くしたと言うだろうが、その最善とは何だ! この子が「身体によって世界に意味を与える」ことを学習するようなリハビリが構築されるまで、僕はこの光景を忘れないと決意した。今からでも遅くない、今も外来でこの子どもを治療しているであろうセラピストよ、目覚めよ! 無意味なリハビリというものの存在を知らなければならない。これを水のアフォーダンスなどと分析することの軽さを知らなければならない。今の、あなたのリハビリでは、この昼下がりの光景を直視できない。

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