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第1回認知運動療法研究会学術集会に来日して頂いたPaola Puccini先生の著書「子どもの発達と認知運動療法(協同医書)」の表紙にはPaul Kleeの線画が描かれています。原題は「Citta d'arte/芸術の都」で1934年の作品です(「クレーの日記(新潮社)」という本があり、その年譜によれば、1934年にはクレーの素描集がヒトラー政府によって出版禁止にされています)。
この絵がなぜ「芸術の都」というタイトルなのかは不明ですが、デフォルメされた線の形状を眺めるだけで、この線はクレーの線だと誰もが印象づけられ、何も描かれていないはずなのに、空や山や谷の遠景のイメージが浮び上る傑作です。
クレーの絵画の中で最も人気が高いのは「金色の魚(Goldfisch)」という作品です。かつてクレーがイタリア旅行の途中にナポリの水族館で見た魚の思い出から描かれたと言われています。画面の中央には王者の風格で辺りを圧倒する「金色の魚」が描かれており、まわりに顔をそむけた小さな魚が7匹います。黒の背景には深海を思わせるダーク・ブルーの海藻が描かれていますが、その中で「金色の魚」は孤独に静止して輝いています。
クレーの画集「ART GALLERY KLEE(集英社)」の解説によれば、この「金色の魚」の輝きは、「キリスト」のメタファー(隠喩)ではないかとされています。「自らの内なる光に由来し、しかもそれは燐光のように熱くもなく、周辺を照らすこともない。神秘的な美の象徴として、この魚は永遠にその輝きを失わないであろう」と記されています。パウル・クレーは、本質的には「線」に語らせる画家ですが、「色彩感覚」もまた天才的なのです。
2000.5.12
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