認知神経リハビリテーション学会

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メッセージNo.5  「シルダーの身体スキーマ」

 第1回認知運動療法学会の基調講演で川崎医科大学の塚本芳久先生が身体運動における「内部モデル」の仮説を提示した。それに関連する「身体スキーマ」について若干記しておきたい。

 Paul Schilder(オーストリア)は1923年に「身体図式(Korperschema); 自己身体意識の学説への寄与」という本を出版している。その序論で「各個人が自己についてもつ空間像のことを身体スキーマと呼ぶ」と述べている。またHeadとHolmesによる「脳損傷と感覚障害」(Brain,1911)という論文から「大脳皮質は注意を一定の方向に喚起させる器官であるのみでなく、先行する印象を貯蔵する所でもある。この印象はイメージとして意識の中に押し入るかもしれないし、あるいは空間印象の場合のように意識の外に留まることもある。それは図式(スキーマ)と呼ばれる我々自身の組織化されたモデルを形造る。大脳皮質損傷によるこのようなスキーマの一つの崩壊は、対応する身体部位における姿態あるいは位置に関する認識を不可能にする」という文章を引用している。そして、「切断患者の身体図式(幻肢)」や「身体部位失認と行為」に関する本文へと入るのだが、認知運動療法との関連で興味深いのは、身体の前意識的な「組織化されたモデル」をスキーマと呼び、それが意識にのぼると「心像(イメージ」と呼び、二つの概念を明確に区別している点である。

 こうしたシルダーの研究は後の精神医学の発展に多大な影響を及ぼしたが、認知心理学では基本的な汎用性のある知識体系を認知スキーマと総称しているし、現在のリハビリテーション領域で使われるスキーマの概念は発達心理学領域におけるピアジェの言う認知スキーマか、体育学におけるシュミットのスキーマ理論である。また、あまり有名ではないが、ロシアのベルンシュタインも体知覚(body perception)が「身体の内部モデル(perceptual frame of reference for body)」の形成に重要であると述べているが、これも身体スキーマの概念に近い考え方である。一方、中枢神経疾患の異常運動を表現する際に「病的スキーマ」という表現が用いられるが、これは「シナジー,synergies」の意味合いが強い。

 身体スキーマの概念は混乱しているが、「身体はあらゆる意味生成の根源である」と哲学者メルロ=ポンティは述べています。

2000.6.20

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