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第1回日本認知運動療法研究会の特別講演で加藤元一郎先生が「脳の全体論と局在論」について少し触れた。その中でvon Kurt Goldstein(ゴールドシュタイン,1878-1965)の名前が出てきた。ゴールドシュタインは全体論的立場から失語、失行、失認、小脳症状等の分析に一時代を築いたドイツの神経病学者であり、ゲシュタルト理論の立場から脳の機能を解釈しようとした人物である。ゴールドシュタインには「DER AUFBAU DES ORGANISMUS /生体の機能(村上仁・黒丸正四郎訳,みすず書房,初版1957」という名著がある。この本は素晴らしい。以下にP203を引用しておこう。
自転車に乗る練習をする場合、我々は初め自転車にのるためにはあまり必要でない偶然的事実によって規定された多くの不適当な運動を続けるが、やがて突然平衡を取って正しく進むことができるようになる。初めの種々の運動は本来の自転車に乗るという動作とは直接には何らの関係も持たない。勿論これらの運動も無計画的なものではなく、これを絶えず修正することによってのみ我々は正しい動作に到達できる。しかし、これらの運動はそれ自身では決して直接に正しい運動に導くことはない。正しい運動は生物の行為と環境条件とが合致した時、突然に現れる。この合致は我々によって直接に体験される。この体験こそ自転車に乗るという動作の正しい認識をもたらすものを含んでいる。この生物学的基礎現象であり、生物の存在を可能ならしめる前提であるところの、生物の能力と環境条件との合致という現象と、生物学的認識過程との間には本質的な類似がある。我々は生物学的認識においても、あらゆる誤った道をたどりつつ、ついに「適当」な全体像に到達するのである。
この記述から、あなたは何を考える?
2000.6.1
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