認知神経リハビリテーション学会

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メッセージNo.3  「ヴィゴツキーの最近接領域」

 第1回日本認知運動療法研究会の特別講演でPaola Puccini先生は「ヴィゴツキーの最近接領域」での治療を強調された。Vygotsky(1896-1934)はユダヤ人でロシアの発達心理学者であり、ルリアの先輩にあたるが38歳で亡くなっている。モーツァルトもそうだが、天才は早死にすることが多い。だから心理学者はヴィゴツキーのことを「心理学のモーツァルト」と呼んでいる。

 ヴィゴツキーの理論のひとつの鍵となるのが、発達の最近接領域(The Zone of Proximal Development:ZPD)で、これは「問題解決において、援助なしで子どもが達成できることと、大人の援助があれば達成できることとの差」と定義されている。この差の領域の設定が学習において重要なのだから、運動療法において患者に課題を設定する場合もこの領域内であるかどうかをセラピストは常に認識していなければならないということになる。もちろん、この大人の援助という意味を単にセラピストの他動的な動作介助と考えてはならない。ある目標を達成するためのセラピストによる課題の変更、どの感覚で何を認識するのか(知覚)、何に意識を集中するのか(注意)、何を憶えればいいのか(記憶)、仮説と結果をどのように照合すればいいのか(判断)といった認知過程の活性化への援助であり、これが問題解決能力という学習過程を発達させるわけである。

 この考え方は、脳性麻痺児の運動発達を援助しようとするセラピストに取ってセラピーの羅針盤となるはずである。「子どもの発達と認知運動療法(協同医書)」にはその具体例が示されているが、最大の問題はこの本の難易度が我々日本のセラピストの最近接領域に設定されていない点である。つまり、非常に難解なのである。こうした問題は著者が読者の発達段階を知らない場合によく起こる(授業で学生のレベルを判断できない教師の講義に似ている)。これはPuccini先生の責任だが、そのことを了解した上で、通常以上に認知過程を活性化させて読み返せば、突然、理解に至ることがある。学習には、こうした突然の飛躍がよく認められる。これは子どもの運動発達においても同様である。発達における最近接領域は飛躍のための準備領域でもある。そして、その本質は状況に埋め込まれているが、最近接領域が「知ること」、すなわち「認知」と深く関わっていることだけは間違いない。

2000.5.26

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