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メッセージNo.18  「セラピストの進化的危機」

 近年、セラピスト(理学療法士・作業療法士)の養成校が急増している。人類学者の長谷川眞理子氏の「ヒト:この不思議な生き物はどこから来たのか(ウェッジ選書1200円)」を読んでいて、生物のどんな生活史戦略が進化するのか、どんな生態学的条件のときには、どのような生活史戦略が適応的なのか、ということが書かれていた。この説明から、現在のセラピストが進化的危機を向かえていることがわかるので引用しておこう。それは生態学者のマッカーサーとウィルソンによる仮説である。

 「大雑把に言えば、おとなのからだが小さく、成長速度が速く、死亡率が高く、たくさんの卵(子)を産み、親が子の世話をせず、寿命が短いタイプの生物と、おとなのからだが大きく、成長速度が遅く、死亡率が低く、少ない数の卵(子)を産み、親が子の世話をし、寿命が長いタイプの生物とに分けることができる。前者をr型、後者をK型と呼ぶ。これは個体群の増加を表わす微分方程式であるロジスティック式から命名されたものである

 ロジスティック式では、個体群の内的自然増加率をr、環境収容力をKで表わす。r型の生物とは、増加率を最大化するようなタイプと解釈することができる。たくさんの子を産み、成長速度が速いので、うまくいけば劇的に増加することができる。このような生物は、環境のかく乱が激しいために個体群密度が飽和に達していない場所に生息していることが多い。つまり、環境収容力Kによって規定されているのではないので、増加率rを最大化するような戦略ということができる。

 一方、K型の生物は、少ない数の子をじっくり育てることにより、競争力の高い子どもを育てるタイプと解釈することができる。子どもの数が少なく、親がしっかりと世話をし、長い時間かけて大きな子どもに育てる戦略である。これでは、素早く増えていくことはできない。このような生物は、環境が飽和している、つまり環境収容力がもういっぱいになってしまったところに生息していることが多い。つまり、素早い増加はもはや望めないどころか、飽和環境下なので個体間の競争が激しくなる。そこでいかに競争力の高い子どもを作るかという戦略であるといえる。」

 (長谷川眞理子「ヒト:この不思議な生き物はどこから来たのか(ウェッジ選書)より引用

 現在のセラピストの進化がr型であることは明白で、そうした現状を作っているのは、かつて、K型で育てられた教師や臨床実習指導者であるという所が問題である。これはセラピストの未来に取っての重大な危機であるのだけれど、実は、この危機は、もっと根深い危機的状況を作り出している。

 セラピストが考えもなしに、自らの危機を作り出すのは勝手だが、患者の治療もr型になってきているのではないか。r型のセラピストは、患者をじっくり治療し、長い時間をかけて患者を育てるというK型の戦略を知らない。

 認知運動療法はK型の治療である。そのことを生物の進化論的な側面からも理解する必要があるように思う。

2003.5.24

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