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メッセージNo.117 中国で認知運動療法が始まった

 2022年8月15日付のFront. Rehabil. Sci.に『Cognitive therapeutic exercise in early proprioception recovery after knee osteoarthritis surgery(変形性膝関節術後の早期固有受容感覚の回復における認知運動療法』が掲載されているのを発見した。
 著者はYubao Ma氏らで、所属は北京首都医科大学附属「筋骨格系りハビリテーションセンター」である。共著者にはアメリカのネブラスカ大学メディカル―センターのMuchen Ren氏が加わっている。つまり、アメリカ経由で臨床導入された可能性が高い。

 「中国のリハビリテーションに認知運動療法が導入されている」と驚いた!

 日本に整形外科系の認知運動療法を紹介したのは沖田一彦氏(当時、高知医療学院、後に広島県立大学)である。彼は1993年にイタリアのスキオ病院にペルフェッティ先生を訪ね、整形外科医のジョバンニ先生とも会っている。そして、高知の愛宕病院で主に下肢骨折患者に対して臨床導入を始め、1998年のペルフェッティ著:『認知運動療法―運動機能再教育の新しいパラダイム,協同医書出版社』の第7章「整形外科疾患に対する認知運動療法」を書いた。
 また、1990年代の後半に「変形性膝関節術後の認知運動療法」に先駆的に挑戦したのは高橋昭彦氏(当時、兵庫県立リハビリテーションセンター、現在、子どもの発達・学習を支援するリハビリテーション研究所)と、彼を中心とする兵庫県立リハビリテーションセンターの若いセラピストたちであった。香川真二氏(現在、神戸市議会議員)、村上仁之氏(現在、姫路獨協大学)、富永孝紀氏(現在、株・たか翔)らである。

 しかし、2023年の現在、日本における整形外科系のリハビリテーションの現状は、まだ関節可動域訓練、筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、個別的なスポーツ動作の練習が中心であり、フランスのProprioceptive ex やイタリアの認知運動療法は一般化していないように思える。

 整形外科疾患のリハビリテーションに取り組むセラピストには、ぜひ1997年のPTジャーナル1月号に掲載された沖田一彦・内田成男・宮本省三・他著:『欧米における整形外科系運動療法の動向 −我が国の運動療法の新たな展開に向けて』を読んでほしい。
また、オリバー・サックスの『左足をとりもどすまで(晶文社,1994)』を読んでほしい。

 それによって整形外科疾患にも「脳のリハビリテーション」が必要であることがわかる。

 『Cognitive therapeutic exercise in early proprioception recovery after knee osteoarthritis surgery』ではプロプリオセプター(固有感覚受容器)による膝関節の位置覚のマッチング(照合)が試みられている(図1)。

図1
図1 Yubao Ma:Cognitive therapeutic exercise in early proprioception recovery after knee
osteoarthritis surgery,Front. Rehabil. Sci,2022)

 認知運動療法では空間課題(方向、距離、形)を第1段階(他動運動)、第2段階(自動介助運動)、第3段階(自動運動)の順で試みる。それによって下肢の位置覚や運動覚のマッチング(照合)精度を高めてゆく。
 重要なのは、位置覚には関節包の機械受容器が必要だが、運動覚にはプロプリオセプションが必要な点だ。かつて、マクロスキーは手術で自己の足指の皮膚を切開して、腱を他動的に引っ張り、足指の関節の位置覚の変化を自らの意識で感じ取った。そしてまた、重量覚(重さの感覚、努力感覚)は脳からの筋収縮の遠心性コピー(予測)と抵抗力との比較であることを明らかにした。また、最近の脳科学で内藤栄一先生が腱に振動刺激を与えて運動錯覚を確認しているように、筋紡錘からのプロプリオセプションは関節の位置覚や運動覚を生成することが実証されている。
 また、四肢切断後には幻肢が出現するが、各種の整形外科疾患でも身体意識(身体所有感、運動主体感)の変容、運動イメージの想起不全、筋収縮のシナジーや協調性の不全、情報の不一致による疼痛、代償歩行などが出現する。
 これらの知見は、骨、関節、筋の損傷後に認知運動療法を適用する根拠である。近年、手術治療や薬物治療は進歩しているが、それですべて患者の問題が解決するわけではない。整形外科疾患のリハビリテーションも「病的状態からの学習」と見なす必要がある。

 中国で認知運動療法が始まった。
 世界は動いている。

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