
Home > 会長からのメッセージ目次 > メッセージNo.137
| ←No.136へ | No.138へ→ |
Laia Sallésらの『Nurocognitive approach for recovering upper extremity movement following subacute stroke: a randomized controlled pilot study(急性期脳卒中後の上肢の運動機能回復のための認知神経アプローチ』、Phys Ther Sci. 2017 Apr;29(4):p665-672を久しぶりに読んでいると、とても理解しやすい[表]があったので紹介したい。
片麻痺の認知神経リハビリテーションにおいて「認知問題(空間問題と接触問題)」を適用する場合、「認知の活性化に伴う感覚課題(運動覚と触覚)の階層性」を考慮しておく必要があることを、臨床的にわかりやすく説明する[表]である。
この感覚(運動覚と触覚)―難易度(低い➡高い)―必要とする認知活動(患者への問いかけ方)の分類は臨床実践でとても重要だ。運動覚と触覚は頭頂葉の階層性を考慮して評価・治療・効果判定しなければならない。運動覚も触覚も他動運動で検査する。運動覚は関節運動の有無に、触覚は接触の有無に、患者が気づくかどうかから始める。運動覚は各関節の空間的な位置関係、方向・距離・形の知覚、模倣も観察する必要がある。触覚は圧との区別、触覚の比較、接触の空間定位(身体のどこか、接触面)、触覚の言語化、物体との一致(何の物体の表面化)についても観察する必要がある。それは各患者によって一人一人異なる。
こうした微妙な体性感覚麻痺の状況を評価した上で、難易度を考慮して治療を実践し、回復の効果を判定しなければならない。片麻痺の体性感覚麻痺は階層性に準じて回復する。それをセラピストは厳密に評価・治療・効果判定しなければならない。
そのためには認知問題を作成するための道具の選択、難易度の選定、患者への問いかけ方が厳密でなければならない。それによって脳の認知過程(知覚、注意、記憶、判断、イメージ)の活性化が異なるからだ。認知神経リハビリテーションの臨床では当然のことだが、認知神経リハビリテーションを臨床導入しているセラピストでも、案外、厳密さに欠けていることが多い。それでは体性感覚麻痺は回復しないだろう。あるいは、回復に気づかないだろう。
セラピストは患者の体性感覚麻痺の微妙な変化を知っておく必要がある。機能解離の解除によって微妙に回復してくる。回復に患者自身もセラピストも気づいていないこともある。さらに、そのためには患者への問いかけに対する患者自身の「一人称言語記述」も分析する必要がある。また、下肢(足底)の体性感覚麻痺の回復においても同様である。あるいは、脳卒中片麻痺だけでなく、脳性麻痺、小脳失調やパーキンソン病などの神経変性疾患、整形外科的な運動器疾患、疼痛、子どもの発達障害などでも同様である。体性感覚(運動覚と触覚)の細分化(フラグメンテ―ション)に伴う体性感覚麻痺の回復は、運動麻痺の回復につながる。なぜなら、行為の学習における体性感覚の予測を多様化かつ階層化し、その予測と結果を比較照合する認知能力を向上させるからである。
だから、この[表]の分類と意味をしっかり理解して、日々の臨床に望んでほしい。
実は、著者のLaia Sallésさんは、僕が2004年にサントルソ認知神経リハビリテーションセンターで長期研究した時の同僚(友人)である。スペインから来ていた彼女は20歳代前半の若くて明るい研修生で、とても優秀だった。一方、僕は既に40歳を越えていた。そして、言葉のわからない僕は、リハビリテーション訓練室での患者の治療だけでなく、私生活でも、彼女に大変世話になった。
担当患者のカルテ(プロフィール)をペルフェッティ先生に提出しなければならない時(許してくれと思った)、サントルソの学会でイタリア語で30分も口述発表しなければならない時(無茶だと思った)、その内容を雑誌の原稿としてイタリア語で論文化しなければならない時(絶対に無理だと思った)、困った時はいつも家に来て手伝ってくれた。僕の意味不明のイタリア語の意味を組み取って原稿を作成してくれた。というより、彼女がいなければ、僕はカルテも書けなかったし、口述発表も論文化もできなかった。また、一緒に食事し、双子の子どもたちともよく遊んでくれた。つまり、僕にとっては恩人なのだ。
この論文を久しぶりに読み返して、当時の彼女を想い出した。改めて、僕の心は彼女への感謝の気持ちで一杯になった。そんな気持ちを込めて、この論文を紹介している。
Prof.Laia Sallés(UNIVERSITAT CENTRAL DE CATALUNYA ホームページ、
教員紹介/スペイン認知神経リハビリテーション研究会ホームページより)
現在、彼女(ライア・サレス)は、スペインのカタルーニャ地方にある「UNANRESA・UNIVERSITAT DE VIC/ UNIVERSITAT CENTRAL DE CATALUNYA」の理学療法学科の教授になっているようだ。大学のホームページで教員紹介されている写真と、スペイン認知神経リハビリテーション研究会のホームページで紹介されている臨床場面の写真を掲載しておきたい。
この論文の共著者にはPerfetti先生が含まれている。
ライア、きっと嬉しかっただろうね!
| ←No.136へ | No.138へ→ |