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雪の中に天使がいるかどうかは知らないが(図1)、発達障害児の身体図式の評価において「雪の中の天使(angel in the snow)」と呼ばれる検査があることを知った。
( 図1)
Margot C著(斎藤裕子・他訳)『人間行動の発達 : 学習障害の神経学的統合アプローチ(Neurophysiological concepts in human behavior : The tree of learning,1980),協同医書,1985』には「身体イメージと分化(身体図式)」の検査の一つとして「雪の中の天使」が記載されている。
子どもは床の上で背臥位を取る。両上肢は肘を伸展した状態で手を体幹の側面に置き、両下肢も自然に膝を伸展して閉じておく。その上でセラピストが両側の上下肢を左右同時に開くよう言語教示する。つまり、子どもは体幹を動かさずに両肩関節と両股関節を同時に外転する。
もし、これを積もった雪の上に寝た状態で行うとどうなるだろうか? この動きによって「雪の中の天使」が出現する(図2)
(図2)
そして、この両側の上下肢を左右同時に開くことを基本として、いくつかの検査を加えてゆく。具体的には次の順番である。
[雪の中の天使]の検査 (子どもは床の上で背臥位)
この検査を遂行中に、子どもが身体の部分を手で探したり、動きをためらったり、過度に動かしたり、他の身体部位が動いたり、視覚的な注意が必要であったり、タイミングや運動速度がずれたり、動作を止めたりすると、そうした動作は運動覚のフィードバックに問題がある。
つまり、「雪の中の天使」の動作課題は、身体の部分の分化、すなわち身体の部分の動きを”選択すること”における、子どもの潜在的な「身体イメージ」の問題を提示する。そして、視覚的な運動の確認は除外されている点で「身体図式」の発達検査と言えるだろう。
また、子どもはセラピストの言語教示に従う必要がある(言語の解読)。そして、言語教示を運動に変換しなければならず(運動の産出)、その情報変換における運動の難易度は一側⇒両側同時⇒同側同時⇒対側同時の順番になっている。
(図3)
臨床で、「雪の中の天使」の検査は簡単にできる。発達障害、運動統合障害、脳性麻痺、成人の片麻痺のすべてに適用できるだろう。運動覚の障害のみならず、伸張反射の異常、連合反応、放散反応、共同運動、模倣障害、失行症状、運動の巧緻性、言語による運動の調節能力なども観察できるだろう。そこから、セラピストはさまざまな病態や治療のヒントを得られるはずである。
「雪の中の天使」はエヤーズの感覚統合療法の検査の一つと思われる。「雪の中の天使」というロマンチックな言葉の響きの背後には、子どもの身体イメージの分化や身体図式の障害という重要な問題が潜んでいる。
今度の「小児ベーシック・コース(神戸)」で認知神経リハビリテーションの臨床に導入することを提案しようと思う。
「雪の中の天使」の運動とは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『ウィトルウィウス的人間』の運動のことである(図3)。
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